『SLAM DUNK』に学ぶアドラー心理学「勇気づけ」

『スラムダンク』に学ぶアドラー心理学

アドラー心理学とは。

『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
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(ダイヤモンド社)
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『嫌われる勇気』(岸見一郎 古賀 史健 ダイヤモンド社)が大ベストセラーになったことで、「自己啓発の源流」と呼ばれるアドラー心理学(個人心理学:Individual Psychology)が多くの人に知られるようになりました。

 その生みの親アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、1900年代初頭の近代精神分析学が確立される時期に活躍した人物です。

「原因論」と「目的論」。

 アドラー心理学を特徴づける考え方のひとつに、「原因論」に対する「目的論」があります。

アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)の顔写真
アルフレッド・アドラー
(Alfred Adler)

原因論:「そうなる」のには「原因」がある。

 「原因論」は、原因と結果を結びつける因果論です。「過干渉の親に育てられたから」「学校でいじめにあっていたから」と、過去の出来事を「原因」とみなし、「だから今、こうなった」と、現在の自分(結果)と結びつけて考えます。

 過去の心の傷「トラウマ」は、その代表例です。「私が今、神経症になっている(結果)のは、トラウマ(原因)があるからだ」。だとすると、「原因」(トラウマ)を取り除けば、「神経症」(結果)はよくなるはず、と考えます。

 これが「原因」に着目する「原因論」の考え方です。

目的論:「そうなる」のには「目的」がある。

 「目的論」は、過去の「原因」に着目せず、現在の自分がそうなっている(結果)のに、「目的」があると考えます。何かのために、「そうなっている」「そうしている」と見なします。「目的」と「結果」を結びつけるのが「目的論」です。

 例えば、仕事で失敗し上司に怒鳴られて、翌日から出社しなくなった主任Aさん(20代)がいたとします。

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まっつん

 「原因論」で考えれば、「原因」が「仕事の失敗」「上司の叱責」で、「結果」が「出社拒否」です。「仕事で失敗して怒鳴られたらから、Aさんは、出社拒否になった」ですね。

 「目的論」では、Aさんが、何かの「目的」を果たそうとして出社拒否になっていると考えます。

 Aさんの心の奥には、「職場の人たちに注目されたい」「上司にもっと気にかけてもらいたい」という「目的」があるのかもしれません。失敗して怒鳴られ「心が傷ついている」のは表面的な理由であって、実は、みんなから「注目されたい」「評価されたい」という「目的」がAさんを出社拒否にしていると考えます。

 「Aさんはみんなから注目されることを目的に出社拒否をしている」です。

 これが「目的」に着目する「目的論」の考え方です。アドラー心理学は、この「目的論」の立場をとります。

「勇気づけ」

 よってアドラー心理学では、問題となっている過去の「原因」を取り除こうとするのではなく、「目的」を認識し、「これからどうするのか」(未来)に焦点をあてていきます。

 アドラーは、自分の行動は自分で決められるという「自己決定性」を重視しています。そこで、過去にとらわれることなく、本人の「自立」を促す「勇気づけ」を行っていくのです。

勇気づけ
「勇気づけ」とは、その人が自分自身で困難を克服できる「心の力」を与えることです。

  自分の未来は、自分で決めていくのです。アドラー心理学は「勇気づけの心理学」とも言われます。


安西監督のアドラー流「勇気づけ」術 。

 アドラー心理学の「勇気づけ」を理解するのに、バスケットボール漫画の名作『SLAM DUNK』(井上雅彦 集英社)に登場する湘北高校バスケ部安西監督の言動が参考になります。

 常に仏のように穏やかな安西監督の言葉と行動を追いかけながら、アドラー心理学のエッセンスを見ていきましょう。

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)
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 『SLAM DUNK』の主人公は札付きの悪だった桜木花道です。彼は湘北高校バスケ部に入部し、キャプテン赤木剛憲、流川楓、三井寿、宮城リョータなど様々な登場人物との激しいぶつかりあいを通じ、バスケットマンとして、ひとりの人間として成長していきます。

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まっつん

 湘北バスケ部を率いる安西監督は、ケンタッキー・フライドチキンのカーネル・サンダースをさらにふくよかにさせた好好爺といったイメージです。登場する時には「ほっほっほっ」といつも笑っていて、沈黙していることの多いセリフの少ない監督です。

 湘北は神奈川県予選を勝ち抜き全国大会に出場すると、2回戦目で高校バスケ界の頂点に君臨する秋田県代表「山王工業」と対戦します。「山王工業」は優勝候補です。強豪チームに無名校が挑む勝利の確率は極めて低い戦いです。

 試合前、桜木たち湘北高校の選手は極度に緊張し、自信を失いかけます。そんな中、安西監督は会場に散るメンバーを探し、ひとりひとりに声をかけていきます。

 気を紛らわそうと廊下でひとり走るPG(ポイントガード)の宮城リョータには、こうです。

 「PGのマッチアップではウチに分があると私は見てるんだが…」「スピードとクイックネスなら絶対に負けないと思っていたんだが…」

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 緊張からトイレに何度も行く三井寿には、トイレで偶然会った風を装い話しかけます。三井がマークする山王工業の先発メンバーがいつもと違い、全国でも有名なディフェンスのスペシャリストになったと告げ、そしてこう言います。

 「いくら山王といえど三井寿は怖いと見える……」

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 桜木は試合前の練習でダンクシュートを決めようとして、派手に失敗しています。廊下でひとり練習する桜木に声をかけると、「あの満員の観客の前で大ハジをかちまったからな…もう怖いものなどねえ」と言葉が返ってきました。監督は言います。

 「おや」「もともと君に怖いものなどあったかね?」

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)

 安西監督の「勇気づけ」によって3選手は、失いかけていた自分への信頼感を取り戻すのです。

 アドラー心理学のいう「勇気づけ」とは、「自分自身で困難を克服できる「心の力」を与えること」です。自分の力で問題を解決できるように「自立」をサポートすることです。

安西監督の言葉がけ。 〜否定しない、依存させない〜

『スラムダンク』完全版 7(井上雅彦 集英社)
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 安西監督は、「緊張してどうすんだ」「それでは戦う前から負けだ」などと選手を否定しません。「私がついているから大丈夫だ」「私を信じろ」とも言いません。それでは監督に「依存する心」をつくるからです。

監督(リーダー)に依存するようになると、選手(フォロワー)たちは、監督(リーダー)の判断を求め、監督の顔色を伺うようになり、プレー中に「自分で考え自分で判断」しないようになります。

 それは、自分自身で困難を克服できる「心の力」から程遠いものです。

 宮城に対しては、「私は〜」とアイ・メッセージ(主観伝達)の形をとり、「だが…」と語尾をあいまいして自分で考える余白を与えています。

 桜木の時も質問形にし、自らの「強み」に自分で気づくように促しています。三井の時には、第三者の視点(敵チームから見て)を導入することで、「(自分には)自信がない」という心のベクトルが過度に自己に向く心の視野狭窄状態から、視点を引き上げ、解放することに成功しています。

 この言葉がけこそ、まさにアドラー流の「勇気づけ」といえるものです。

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まっつん

 安西監督は、「上から目線の賞賛」「厳しい叱咤の言葉」によってリーダーに依存する心理状態をつくり出すのではなく、「気づき」を促し、自分たちの力で困難を乗り越える「心の力」を与たのです。安西監督のリーダーシップ・スタイルが、このコミュニケーションのとり方から、理解することができますね。


誰かに必要とされることが「心の力」になる。

『SLAM DUNK 27巻』(井上雅彦 集英社)
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 山王工業との試合が始まります。安西監督が考え出した奇襲が功を奏し、前半は2点差のリードで折り返します。しかし、後半となり実力差が現れ始めると、58対36と点差が開きます。

 ここで監督は、スタメン出場していた桜木をベンチに下げます。ベンチから試合を見させて、勝つための秘策を授けるためでした。どうするかを伝え終わると、安西監督は桜木を「勇気づけ」ます。

 「それが出来れば君が追い上げの切り札になる…‼︎」

『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)

 ベンチの補欠メンバーが思いを託すため、次から次へと桜木に握手していきます。監督の言葉と補欠メンバーの行動が、桜木の心を強く揺り動かし、後半戦の活躍につながります。桜木の心理状態がこう解説されていました。

 「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」

『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)

 アドラー心理学の重要な概念に「共同体感覚」(social interest)があります。

共同体感覚
「共同体感覚」とは、自分を受容し、他者を信頼し、家族や職場、社会など「共同体」の中で「自分は必要とされている」「自分の居場所はここだ」と思える肯定的な感覚です。

 アドラーは、「共同体感覚」の育成と保持を人生の大きな目的としています。

 桜木花道は、問題児でした。

 バスケ部に入ってからも次から次へと問題を起こしています。その行動が、ギャグと相まって漫画の面白さを格別のものにしていますが、「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」という言葉から、「共同体感覚」の欠落を理解できます。これは物悲しい事実です。

 桜木はバスケ部に所属し数多くの人々と関わっていくことで、そして安西監督の数々の「勇気づけ」があり、物語の終盤27巻目(全31巻)でやっと、「自分は必要とされている」という感覚を抱くことができたのです。

 「お父さんお母さんに大切にされているよ」
 「僕はこの学校にいていいんだ」
 「私はこの職場で必要とされている」

 そんな「共同体感覚」を育むことで人は「生きる力」を育むことができます。そのための「勇気づけ」、そしてアドラー心理学は、今後も、ますます注目されていくことでしょう。

(文:まっつん)

アルフレッド・アドーラ画像 アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)