緊張や不安を軽くする方法(逆説志向)-フランクル心理学003-

フランクル心理学 不安や緊張を軽くする方法(逆説志向)

不安が強くなる心理

会議での発表、顧客を前にしてのプレゼン、結婚式のスピーチなど、社会人になると人前で話す機会が何度もあります。社会人だけでなく、アクティブラーニングが主体となっている現在、学校でも、小学校から大学生まで、授業で壇上に立って話す時間が増えています。

人前に立っても、緊張せずに話すことができればいいですね。

でも、多くの人は、苦手意識を持っています。自分の番になる前から不安が高まり、心臓がドキドキしてきます。さあ前に出るとなると緊張は強くなり汗が流れ出し、いざしゃべり始めると声が震えて、顔が赤くなってしまい、そうなっている自分に気づいて、ますます汗が流れ、時には頭が真っ白になって、言葉が出てこなくなることもあります。

「緊張はしないほうがいい」と思っていても、「緊張するな」と自分に命令しても、手のひらに人と書いて飲むこむ「おまじない」をしても、いとも簡単に期待は裏切られ、緊張は私たちの心と体を硬くします。その結果、恐れや不安が強くなり、上手に話すことができなくなります。

人が緊張しているイメージ画像

例えば、一度でもひどい失敗をプレゼンの場でしてしまうと、「あの時のようにはなりたくない。もうこりごりだ」と、その状況を想像するだけで、体が熱くなったり冷や汗が出てきたりします。そして、「次のプレゼンでも同じような目に合うのではないか」と不安感にとらわれてしまいます。

実際に、今、その場にいるわけでもないのに、「そうなるだろう」と考えるだけで不安になります。こうした予(あらかじ)め感じられる不安感を「予期不安」といいます。

不安感の負のループ

大切なプレゼンがあれば、「明日のプレゼン、うまくいくかな〜」と不安を感じることは、誰にでもあることです。そんな時は、「まあ、なんとかんなるだろ」と楽観的になり心を切り替えて、プレゼンに向かっていくことができます。

ただ、「予期不安」があまりに強くなると、不安に心を支配されて、プレゼンの準備ができなくなったり、夜、一睡もできなくなったり、プレゼンそのものをやめてしまおうと考えたりすることもあります。そんな日常生活に支障をきたすようななると、これは、ちょっと問題ですね。

「失敗したくない、恥をかきたくない、不安になったり緊張するのは嫌だ」と、不安から逃げ出そうとすればするほど、不安感は強くなり、その結果、自信をもってプレゼンできないネガティブな現実がつくり出されます。

不安や緊張に意識を向けることが、実は、不安な状況を現実化しているのです。

「予期不安」を意識すればするほど「さらなる不安」がわき起こり、汗が流れてきたり、動悸がしたり「身体症状」が出ます。すると、自分のすべきことから逃げてしまう「逃避行動」につながり、この経験がまた「予期不安」を呼び起こす原因になります。こうして「負のループ」がつくり出されていくのです。

不安から逃げようとする心の動きが、
むしろ、不安を強く意識することになり、
逆に不安感を強める。

不安感の負のループがぐるぐるまわり出すと、手に負えなくなります。そこで、このループを断ち切ることがポイントになります。フランクルは、そのために「逆説志向」という考え方を提唱しました。


逆説志向(paradoxical intention)

逆説志向(paradoxical intention)とは、「そうなってほしくない症状」を、逆に「もっとそうなれ」とユーモアをもってあえて望む(志向する)ことで、症状を軽くする心理療法です。

強い不安を感じて冷汗が流れるのは、誰でも嫌なものです。不安感や冷汗が、「そうなってほしくない症状」です。

でも、「そうなってほしくない」と思えば思うほど、逆に、「そうなってほしくない症状」を意識することになり、症状が出てしまうのです。

逃げれば逃げるほど、追いかけてくる「影」のようなものです。どうにかしたいですね。そこで、フランクルは考えました。

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フランクル

逃げるから「そうなる」のであれば、逃げなければいい。むしろ、症状に立ち向かっていく、あえて、それを「もっとそうなれ」と望むことで、症状は軽くなったり、消えていくのだ。

この時に、ユーモアをもって「もっとそうなれ」と望む(志向する)ことがポイントです。

「恐れ」とは、それが「異常なもの」と認識することで、発生する感情、感覚です。異常なものを感知したら、恐れを感じる。この心理プロセスは、あたかも計画を立てているかのように、そうなります。

「何もしていないのに、心臓がドクドクする。異常なんじゃないか。おかしい、おかしい…」。心臓の鼓動を「異常なもの」と認知することで、恐れが発生し、心臓が気になってしかたなくなります。すると、さらに恐れがエスカレートし、心臓のドクドクが強くなっていくように感じます。

心臓がドキドキする男性の画像

でも、平気な人もいます。心臓がドキドキしても、「なんか最近、疲れてるからね、よくあること…」。さらりと流して、気にすることなく、自分が今していることに集中します。

「逆説志向」は、恐れに関する計画的とも思える心理プロセスに齟齬(そご)をきたすようにし向けます。齟齬とは、「物ごとがくい違って意図した通りに進まないこと」ですので、異常なものと認識しても恐れが発生しないようにするのが「逆説志向」です。

『神経症1』(V・E・フランクル みすず書房)掲載図(p154)を参考に作成した「計画の齟齬」に関する図
『神経症1』(V・E・フランクル みすず書房)掲載図(p154)を参考に作成

「異常なものを認知することで、恐れを感じる」。これももひとつのプロセスですが、「恐れを感じてるから、それが異常なものと認知される」。そう考えることができます。最初に恐れがあるのです。

では、最初の「恐れ」を「願望」におきかえたら、どうなるでしょう。

逆説志向のロジック

「そうなりたい」と自分から望む。
自分から望むのであれば、
それを正常なものと認知することができるはず。

これが「逆説志向」のロジックです。

フランクルは「逆説志向」によって、数多くの不安感から生まれてくる辛い症状を軽くすることに成功しているのです。では、具体的にその事例を見ていきましょう。

症例1ー発汗恐怖の医師

『意味による癒し』(V・E・フランクル 春秋社)の表紙画像
『意味による癒し』
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ある若い医師がフランクルのもとを訪れました。ある日、彼は上司と握手した時に、自分がものすごく汗をかいていることに気づきます。その時以来、「またひどい汗をかくのではないか」と「予期不安」が強くなりました。汗をかくのでないかと、考えるだけで冷汗が流れるようになってしまったのです。この医師は4年間、発汗恐怖で苦しんでいました。

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まっつん

こういったケースでは、汗の流れている自分に意識が取られて、目の前にいる人の話をまったく聞くことができなかったり、肝心のことを聞き逃したりして、仕事のミスにつながります。「この人は聞いないな」と相手に思われたら、怒りだす人もいるでしょう。これでは日常生活に支障があります。

フランクルは「逆説志向」を試みるため、若い医師にこう助言しました。

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フランクル

「今度発汗が起こりそうになったら、思いきって、自分はどれほどたくさんの汗がかけるかをひとつみんなに見せてやろうと心に決めてください」

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

若い医師は、「汗はかきたくない」との「汗の恐れ」から逃げようとしていました。ですが、フランクルは、汗をかくのをOKとするどころか、それを「みんなに見せてやろう」、「大げさに望む」ことを助言しています。

ここがユーモアですね。

それから1週間後に訪れた若い医師は、自分にこう言い聞かせているのだと、フランクルに報告しました。

「これまではたったの1クォート〔約1.4リットル〕しか汗をかかなかった。しかし今度はせめて10クォートは汗を流してやるぞ」

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

この結果、若い医師は、1回の面接と1週間の逆説志向の自主的トレーニングによって、約4年間続いていた発汗恐怖から解放されたのです。

症例2ー指のけいれん(簿記係 女性)

文字を書こうとすると手が震えること(書痙)で数年来、悩んできた簿記係の女性がフランクルの病院を訪れました。それまで何ヶ所もの病院で治療を受けてきたのですが、全く効果ありませんでした。

文字をうまく書けないことは簿記係として致命傷で、彼女は失職する寸前でした。絶望し、「自殺したい」とまで言いました。

これはフランクルの同僚が行なった症例です。

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フランクル

『治療を開始するに当たって、私の同僚は患者に、彼女がこれまでやってきたのと正反対のことをするように勧めました。すなわち、できるだけきちんと、読みやすく書こうとするのではなく、できるだけ汚くなぐり書きをするように勧めたのです。そして、こう言い聞かせるようにと助言されました。

「さあ、私がどれほど素晴らしいなぐり書きの名手であるかを見せてやろう」』

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

このユーモアに満ちたアドバイスの後、彼女は、なぐり書きをしようと思えば思うほど、そうできなくなりました。「私はなぐり書きをしようとするのですが、それが簡単にできないんですよ」(『意味による癒し』 春秋社p47)と言い、48時間以内に文字を書こうとする時の手の震え(書痙)から「さよなら」することができたのです。

症例3ーエレベーター恐怖症(42歳 男性)

『フランクルを学ぶ人のために』(山田邦男[編]世界思想社)表紙画像
『フランクルを学ぶ人のために』
(山田邦男[編]世界思想社)
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症例3は、日本での「勝田茅生」(かつた かやお)先生の事例です。『フランクルを学ぶ人のために』(世界思想社)に記されている内容を簡単にまとめます。

男性(42歳)は、会社のエレベーター故障で長い時間閉じ込められた経験があります。その後、閉所恐怖症の傾向が出て、エレベーターだけなくトイレに入っても扉を閉めることができなくなりました。

ある所で、精神分析を受けると、出産のトラウマが原因だと言われました。そこで、野球バッドで、母親に見立てた丸太を叩くという心理療法を受けました。「俺を出さなかったお前が憎い」と、大声で叫びながら、バッドを何度も打ち付けるのです。

しかし、症状が悪化したため、ロゴセラピストである勝田先生のもとを訪れます。エレベーターに乗ると「息ができなくなるような気がする」と男性は訴えます。そこで勝田先生は、「逆説志向」を試みました。

「ユーモアを持ってそれが起こることを大げさに望めば望むほど、不安は小さくなる」。逆説志向の説明を行い、大げさな願望を抱くように男性にお願いしました。半信半疑だった男性は、言葉を考え出しました。

「みんなが駆け寄ってきたときに、できるだけ大騒ぎして、自分を救急車で病院に運んでもらいたい。一度病院の車に乗ってみたかったのだから」

『フランクルを学ぶ人のために』(山田邦男[編]世界思想社)p41

男性はこれに続けて、他にもユーモアをまじえたアイディアをひねり出します。そして、勝田先生と一緒にエレベータに乗り込むトレーニングを行いました。9階で降りるまでに、ひどい汗をかきましたが、以前のような恐れを感じませんでした。

それからカウンセリングとトレーニングを繰り返し、半年ほどで男性は、閉所恐怖症の苦しみから抜け出していったのです。


笑いの力

笑顔ユーモアの写真

3つの症例をあげました。「逆説志向」のポイントが「ユーモア」「笑い」であることを、ご理解いただけたと思います。

自分が苦しんでいる症状を不安がったり、恐れるのではなく、むしろ、それを「大げさに望む」ということ自体が、ユーモアに満ちていています。日本語の表現でシンプルに言うと、「笑い飛ばす」ということですね。

ところで、どうしてユーモアをもっておおげさに望むことが、「そうなってほしくない症状」を軽くしたり消したりするのでしょうか。

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フランクル

「笑いにかぎらずすべてのユーモアは距離をつくり、患者をその神経症や神経症の症状から遠ざからせるからである。そうして、まさにユーモアほど人間に、なにかあるものと自分自身とのあいだに距離をつくらせるものはあるまい。ユーモアをとおして患者はたやすく、自分の神経症の症状をどうにか皮肉り最後には克服することをも学ぶのである」

『神経症1』(V・E・フランクル[著]、宮本忠雄、小田晋[訳]みすず書房)p161-162

「ユーモア」つまり、「笑う」ことによって、人は自分と症状との間に、心理的な距離をつくりだすことができます。そうした心の働きをフランクルはこう呼んでいました。

自己距離化(self-detachment)

症状に苦しんでいる時には、不安や恐れに心が飲み込まれてしまっている状態です。自己距離化ができていない状態です。これでは、「そうなってほしくない症状」をコントロールすることができません。

でも、自分と症状に距離がとれて、客観的に見ることができれば、心の余裕も生まれてきて、症状をやわらげることができます。こうした心理的作用が、無意識のレベルで自然に行われるとフランクルは言っています。

ですから、「逆説志向」を試みようとする時に私たちとしては、あまり難しく考えず、どう作用するかは「自分の心」に任せておいて、とにかくユーモアをひねり出して、笑い飛ばそうとする姿勢を保つことが大事ですね。

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まっつん

私はもともと人前で話すのが、とても苦手な人間でした。現在は、だいぶ緊張することなく話すようになれましたが、今も得意かと聞かれたら、「そうです」と言い切れない自分がいます。というのも、100人、200人の前で講演をする時などは、今も心臓がバクバクすることがあるからです。そんな時に、私はいつも「逆説志向」で、自分を笑い飛ばしています。「よっしゃーきたー、この緊張と心臓の鼓動を会場中に響かせて、手をぶるぶる震わせてみんなを大笑いさせてやるぞ〜」などと…。すると不思議なもので、落ち着いてくるのです。これでユーモアがあるかどうかは、ごかんべんを…!

フランクル心理学は思想や哲学であって、「心理療法として役に立たない」という批判があります。それはきっと『夜と霧』が世界的ベストセラーとなって、そこに書かれてあることがフランクル心理学の全てだと考えている人が多いからでしょう。

でも、少しつっこんで学ぶと、「逆説志向」という実際に患者を治癒した心理療法があることを知ることができます。

『夜と霧』は、やや暗く重いイメージがありますが、フランクル自身はバイタリティにあふれ、とても明るくユーモアにあふれる人でした。亡くなる直前まで、家族を笑わせていたというエピソードも残っています。

不安や緊張する場面に出くわしたら、ぜひ、自分を「笑い飛ばす」という「逆説志向」を思い出してみてください。

逆説志向のポイント

自分の症状を深刻にとらえるのではなくて、笑い飛ばす。

(文:まっつん)

注意
「逆説志向」は万能の心理療法ではありません。精神科やメンタルクリニックに通院されている方は、必ず主治医のご判断に従ってください。

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フランクル

ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905〜1997)ロゴセラピーの創始者。オーストリア出身の精神科医、心理学者。世界三大心理学者(フロイト、ユング、アドラー)につぐ「第4の巨頭」。第2次世界大戦中のナチス強制収容所から生還する。その体験を記した『夜と霧』は世界的ベストラーとなる。「生きる意味」を探求するロゴセラピーという独自の心理学を確立し、世界に大きな影響を与えた。享年92歳。著書:『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)『意味による癒し』(春秋社)ほか。


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著:松山淳 解説:諸富祥彦
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フランクルの画像 ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl) 参考 フランクルの「生いたち」から、その人生心理カウンセラーまっつん(松山淳) 参考 『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)紹介ページ心理カウンセラーまっつん(松山淳)