笑いという心の武器を手にしよう。《笑われる勇気》-フランクル心理学006-

笑いという 心の武器を手にしよう!「笑う勇気」

ユーモアが心を癒す。

フランクル心理学に「逆説志向」という心理療法があることを「不安や緊張を軽くする方法」(Logotherapy003)で書きました。

逆説志向(paradoxical intention)とは、「そうなってほしくない症状」を、逆に「もっとそうなれ」とユーモアをもってあえて望む(志向する)ことで、症状を軽くする心理療法です。

ここで、大きなポイントになるのが、なんといっても「ユーモア」でした。

人前で緊張する時にユーモアを。

人前で話すことが苦手で、どうしても緊張してしまい悩んでいるAさん(女性)がいるとします。もし、Aさんが、フランクルのもとを訪れたら、こんなやり取りになるでしょう。

Aさん

私は人前で話そうとすると、どうしても緊張してしまい、うまく話すことができません。どうすればいいのでしょうか。

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フランクル

緊張してもいいじゃないですか。「緊張しない」と考えるのではなく、逆にもっと緊張しよう、もっと緊張しようと考えてみてください。

Aさん

えっ?そんなこと考えたら、もっと緊張してしまいますよ。私は、緊張しないで話しができるようになりたいのです。バカにしないでください。

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フランクル

Aさんの気持ちはわかります。でも、「私は緊張したくない」と、自分に意識を向け過ぎている限り、緊張はとれません。自分を見つめていることが、緊張の原因なのです。だから過度の自己観察をやめて、もっと緊張してやれと、自分を笑い飛ばすのです。そうすれば、緊張しないですみます。

Aさん

本当ですか?なんだか、バカにされているような…笑い飛ばすって…でも、どうやるのですか?

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フランクル

例えばですね、人前で話す直前にドキドキ緊張してきたら、「緊張してやるぞ。もっと緊張してやる。世界緊張選手権で世界一になるぐらい緊張してやるんだ。ついでにギネス記録に登録してやるぞ」と、ユーモアをまじえて、自分を笑いのネタにしてしまうのです。自分でバカらしくて、アホらしくて、くだらなくて、笑えてくることを考えるのです。何かありませんか。

Aさん

何かないかって急に言われても、そうですね、私は緊張して顔が赤くなっていまうのです。それが嫌なんです。だから、「もっと緊張して、もっと顔を赤くして、顔を真っ赤にして、みんなを笑わせてやるわ。真っ赤に燃える太陽より顔を赤くして、みんなを笑わせて、場を盛り上げてみせるわ」…。

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フランクル

Aさん、その調子ですよ。笑いが起きたら、場がなごんで、話しがしやすくなりますよ。それは自分のことではなくて、今、目の前にいる人たちのことを考えていることです。「緊張するな」では、心のベクトルが自分向きです。「笑って場を盛り上げる」だっったら、ベクトルが他人に向いていますね。そこがポイントなんです。

Aさん

心のベクトルの向きですか…なるほど、確かにそうですね。私は、自分のことばかり考えていたのかもしれません…。

以上のやり取りからもわかる通り、フランクルは、自分に意識を向けすぎることー「過度の自己観察」が、いろいろな心の問題を引き起こす原因になると考えていました。例えば、「眠れない」というのも、そのひとつです。


眠れぬ夜にもユーモアを。

『時代精神の病理学』(V・E・フランクル[著] 宮本忠男[訳]  みすず書房)の表紙画像

『時代精神の病理学』
(V・E・フランクル[著] 宮本忠男[訳]  みすず書房)

「逆説志向」は、夜、眠れない時にも有効だとフランクルは言っています。眠れないことは、とても辛いですね。眠ろうとすれば、するほど眠れなくなります。フランクルは、不眠の心理をこう表現しています。

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フランクル

眠ろう眠ろうと努力すればかえって眠気はさめる一方ですし、また、これはもがけばもがくほど一層ひどくなるものです。眠れるのをいらいらしながら待ち、その上で自分を不安な面持ちで見守る人は、自分から眠りを追い払っているわけです。

『時代精神の病理学』(V・E・フランクル[著] 宮本忠男[訳]  みすず書房)p77

確かに、そうですね。眠れない経験を一度でもしたことがあれば、納得できるでしょう。眠ろうとする努力が、結果的に、自分にベクトルを向けることになってしまい、「私は眠れない、眠れない」という「過度の自己観察」が発生してしまっているのです。

なるほど、「過度の自己観察」がいけないことはわかりました。では、どうすれば眠れるようになれるのでしょうか。

眠ることをあきらめる。

フランクルは、「眠ることをあきらめてください」といいます。「眠ろう眠ろうと」することで、眠れなくなっているのですから、眠ることをあきらめることで、眠りは近づいてくるというのです。

眠っている男性のイラスト

「眠れない眠れない」とか「どうすれば眠れるんだ」とか、「睡眠」について一切考えるのはやめます。どうせ眠れないのですから、「眠り以外のことを思い切って考えてみようと決心する」というのが、フランクルの教えです。ちょっと表現は古いですが、「こんな風に考えてみたら」というフランクルからのユーモアラスな提案です。

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フランクル

「今夜はちっとも眠りたくない、ひとつ今夜は体を休ませながら、あれやこれやを考えてみたい。この前の休暇のことや次の休暇のことなどを」。

『時代精神の病理学』(V・E・フランクル[著] 宮本忠男[訳]  みすず書房)p77

こうしたユーモアを含めた「逆説志向」のアドバイスによって、不眠に苦しむ人たちが、実際に眠れるようになったのです。驚くとともに、その効果を認めざるをえません。

もちろん、全ての人に効くとはいえないでしょう。不眠にも、様々な原因やレベルがありますので、病院に通っている方は、主治医の指示に従ってください。

笑い飛ばすことの力。

「逆説志向」の事例を知れば知るほど、「ユーモア」の大切さを理解することができます。それは、「笑いの力」であり、自分を「笑い飛ばす」ぐらいの肩から力を抜けた感じのほうが「心の健康に良い」ということですね。次の事例もそうです。

60年間、とても強い洗浄強迫があり細菌恐怖症で苦しむ婦人がいました。彼女は、フランクルのいるウィーン市立病院に入院する前、「生きることは私にとって地獄でした」と告白しています。
この患者に対してフランクルの同僚が「逆説志向」を試みました。
それから約2ヵ月後に婦人は、普通の生活ができるようになったのです。この婦人が「それを笑い飛ばす」と表現しています。「それ」とは、自分の症状であり、現実に起きてくる不安や恐れのことでした。

60年もの間、苦しんでいたのに、約2ヶ月の逆説志向で、つまり「それを笑い飛ばす」ことによって、恐怖症の苦しみから解放されました。つくづくよかったと思いますし、ユーモアや笑いの底力を実感する事例です。

ユーモアについて、フランクルの言葉です。

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フランクル

この逆説志向は、何と言いましても、そのつどできるだけユーモラスに表現される必要があります。実際、ユーモアというものは、本質的に人間的な現象なのです。人間はこのユーモアによって、ありとあらゆるものから距離を取り、したがって自分自身からさえも距離を取って、自分をすっかり意のままにすることができるのです。このように距離を取るという人間の本質的能力を発揮させること、それこそわれわれが逆説志向を適用する際にいつも心がけていることなのです。

『時代精神の病理学』(V・E・フランクル[著] 宮本忠男[訳]  みすず書房)p77

ここでフランクルは、「距離を取る」と繰り返しています。笑いによって、心理的な距離がとれることを「自己距離化」といいます。距離が取れると、何らかのセラピー効果の発生するのが人間の心なのですね。

笑顔の女性イメージ画像

フランクルは患者に「逆説志向」を説明し、それを試みようとして笑いが起きれば「もう賭けに勝ったのである」(『神経症1』 みすず書房p161)とまで言っています。

フランクル心理学は、笑いを大事にする心理学なのです。


笑いは心の武器になる。

『夜と霧』(みすず書房)
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フランクルは惨劇を極めたナチスの強制収容所を生き延びた心理学者です。地獄のような場所をすぐに想像できますので、ユーモアや笑いとは、ほど遠い世界だと思ってしまいます。

ところが、彼の書いた『夜と霧』読むと、フランクルが強制収容所でも「ユーモア」「笑うこと」を大切にしていた事実を知ることができます。

フランクルは、収容所で一緒に働く仲間に提案をしています。

「私は数週間も工事場で私と一緒に働いていた一人の同僚の友人を、少しずつユーモアを言うように教え込んだ。すなわち私は彼に提案して、これからは少なくとも一日に一つ愉快な話をみつけることをお互いの義務にしようではないかと言った」

『夜と霧』(V・E・フランクル[著] 霜山徳爾[訳] みすず書房)p132

そして、普通の生活に戻れた日のことなどを思い浮かべて、収容所の監視官にされたことなどを題材にして、互いに笑いあったといいます。

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まっつん

ユーモアをひねり出そうとする時、心は過去、現在、未来の時空間を遊び回ります。それは辛い「今」を忘れ去ることに大きな効果を発揮します。その行為は「逃げ」ではなくて、辛い状況で「生きる力」をつくりだすための知恵だったといえます。

 フランクルは、強制収容所でユーモアを大事にしたことについて、こう書いています。

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フランクル

ユーモアもまた自己維持のための闘いにおける心の武器である。周知のようにユーモアは通常の人間の生活におけるのと同じに、たとえ既述の如く数秒でも距離をとり、環境の上に自らを置くのに役立つのである

『夜と霧』(V・E・フランクル[著] 霜山徳爾[訳] みすず書房)p131-132

ここでも「距離をとり」という表現が見られます。心の病に対処する心理療法としての「自己距離化」もありますが、自分の置かれた状況がとても辛い時にも、「ユーモア」「笑い」によって「距離をとる」ことが大事なのです。

「環境の上に自らを置く」というのは、強制収容所という地獄に自分がいる事実を認めつつ、それに「飲み込まれない」「落ち込まない」ということです。もし、飲み込まれたら、心は苦悩に支配されて生きる気力が奪われてしまいます。

でも、ユーモアで自分を笑い飛ばし、苦悩の上に自らを置くことができれば、心のダメージを最小限におさえることができ、悲劇の中を生きながら、悲劇を演じるような感覚が生まれてきます。

そうすれば、絶望的な状況でも心は折れることなく、希望を見出すことができるのです。

笑う勇気のイラスト。

先ほどのフランクルの言葉にあった通りです。

ユーモアは心の武器

どんなに辛いことがあっても、笑い飛ばすことができたら、いいですね。

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まっつん

今、日本は、他罰社会と呼ばれています。人を攻撃することで自己の正当性を声高に叫び、自己満足に終始する精神がはびこっています。前後の文脈は無視して、言葉を切れ取られ、揚げ足をとられ、笑い飛ばすことが、とても難しくなっていますね。

そんな時代だからこそ、ユーモアや笑うことがますます大事です。フランクルは、「笑うことへの勇気が必要である」(『神経症 Ⅰ』みすず書房 p158)と書いています。

笑われるピエロと笑顔の女性の画像

アドラーが「嫌われる勇気」ならば、フラクルは「笑う勇気」です。自分を笑い飛ばすことは、心に余裕のある証です。

「笑う勇気」を大いに発揮して、元気にいきましょう。

(文:まっつん)


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フランクル

ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905〜1997)ロゴセラピーの創始者。オーストリア出身の精神科医、心理学者。世界三大心理学者(フロイト、ユング、アドラー)につぐ「第4の巨頭」。第2次世界大戦中のナチス強制収容所から生還する。その体験を記した『夜と霧』は世界的ベストラーとなる。「生きる意味」を探求するロゴセラピーという独自の心理学を確立し、世界に大きな影響を与えた。享年92歳。著書:『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)『意味による癒し』(春秋社)ほか。


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フランクルの画像 ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl) 参考 フランクルの「生いたち」から、その人生心理カウンセラーまっつん(松山淳) 参考 『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)紹介ページ心理カウンセラーまっつん(松山淳)