無意識の力を信頼する《心理ー精神拮抗作用》-フランクル心理学007-

フランクルが考えた「身体」「心理」「精神」

フランクル心理学は、思想であって心理学ではない。そんな批判があります。フランクルは、「逆説志向」や「反省除去」という心理療法によって実際に、患者を治療していたわけですから、その批判は的外れです。

ただ、そう批判されてしまうひとつの要因として、「心の構造」の解説の難しさがあげられます。どうしても、すっと頭に入ってこないのです。フランクル心理学の基本となる「心の構造」は、日本語にした時に、余計に難しくなってしまっています。この皮肉のため、心理学としての基本にスポットライトを当てにくいのではないかと思います。

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まっつん

でも、フランクルの「心の構造」は、「逆説志向」「反省除去」の基礎となる、とても大事な部分です。そこで、フランクルが心の仕組みをどう考えていたのかを、できるだけ枝葉を切り取って、誤解を恐れず、すっきりさせてみたいと思います。

原書からの引用を増やすと、逆に難しくなるので、今回は最低限にします。

フロイト、ユングが考え方「心の構造」

フロイトやユングの深層心理学では、下の図のように、心を「意識」「無意識」にわけて考えます。わかりやすいですよね。私たちの心には、「意識できる部分」(意識)と、「意識できない部分」(無意識)ある。とてもシンプルです。

意識と無意識の図

「今、自分の右手に意識を向けてください。」と言われたら、心が右手へと移動します。その心が、ここでいう「意識」です。それと同時に、別の心の部分が私たちの知らないところで働いています。それが「無意識」です。

フランクルが考えた「心の構造」

これに対して、フランクルがどのように考えたのか。まず、下の図が結論です。

フランクルは、「身体」「心理」「精神」という3つの要素を考え出して、「心の構造」を整理しました。

身体は「からだ」のことですので、これは、すぐわかります。でも、次にくる「心理」と「精神」を見た時に、「それって同じじゃないの?」と混乱してしまいます。私たちが日常会話で、「心理」と「精神」といったら、ほぼ同じ意味で使いますよね。ここが、つまづくところです。

では、この「つまづき石」をとるために、2つの違いについて説明していきます。


「心理」と「精神」の違い。

「心理」とは何か

フランクルがいう「心理」は、心理的現象を感じとる場所です。心理的現象とは「心の反応」のことです。

自然の中で癒される女性の写真

例えば、「先生に叱られてムカついた」「ディズニーランド行って、めっちゃ楽しかった」「久しぶりに、自然の中で、癒されたわ〜」など、そういった、ある出来事があった時に自然と起きる「心の反応」が、心理的現象です。

嫌いな虫を見たら逃げたくなります。美しい景色を見たら感動します。現実の出来事を刺激にして心が反応することで、いろんな感情が自然とわいてきます。それを感じるのが「心」ですね。その感じる部分またはその働きを、フランクルは「心理」といっています。

では、この「心理」に対して「精神」とは…。

「精神」とは何か

「精神」とは、「無意識レベルでの主体的な人間らしい心の働き」のことです。フランクルは「精神的無意識」ともいっています。

ここでポイントになる言葉は2つあります。「人間らしい」「主体的」です。まず、「主体的」をフックにして説明を進めていきます。

先ほど、「心理」を説明したところで、「自然と起きる」を太字にしました。「主体的」と「自然と起きる」では、反対の考え方になりますね。

「Aさんが主体的に〜を行う」といえば、Aさんが自分の意志で、決断し選択し〜を行うことです。反対に、「自然と起きる」だと、自分の意志の関わりは少なくなり、受け身の状態となります。それは受動的な心の動きといえます。

「精神」ー「主体的」
「心理」ー「受動的」

この「主体的」と「受動的」が、「精神」と「心理」の大きな違いになります。

でも、ここで疑問がわいてきます。

「だって、精神のある場所が無意識だとしたら、どうして主体的になれるの?だって、決断するとか選択するとかって、意識的に行うことでしょ。無意識にできないじゃん」

ホント、その通りですね。ここが混乱するのです。

では、この混乱をおさめるために、まず、フロイトの深層心理学における無意識との違いについて説明していきましょう。

フロイトの考える「無意識」との違い。

フロイトの「無意識」は、「意識」に衝動的に強く作用するものです。

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まっつん

衝動的とは、意志や理性に反して心が突き動かされる様子です。「昨日、自由が丘でさ、けっこう高かったんだけど、つい、このワンピース衝動買いしちゃったの」と言ったら、「買うつもりはなかったんだけど、欲求に理性が負けて買い物をしてしまった」という状況ですね。

深層心理学の「無意識」には、人の心を突き動かす衝動的な「欲求」という側面があります。「欲求」は、お腹がすいたり、眠たくなったりで、自然と起きてくるものです。自分の意志や理性ではとめられない時もあります。

「自然と起きる」のですから、これは、フランクルの「心の構造」で考えると「心理」に近いものです。

「衝動買い」したら、後で、お小遣いが足りなくなったり、2、3回、ワンピースを着たら、急に似合わないような感じがして、タンスの肥やしになったりします。これは「人間らしい」行いとは言えませんね。

そこで、フランクルは、フロイトの無意識を「衝動的無意識」と名付けて、自身の理論である「精神」の部分を「精神的無意識」と呼んで、対比させたのです。

◆深層心理学ー「衝動的無意識」(理性に反する働きもする)
◆フランクル心理学ー「精神的無意識」(主体的・理性的に働く)

フランクルは、無意識の中で、主体的で理性的で自律的な「人間らしい」心の働きがあるのだと考えたのです。

フランクルの考える無意識

無意識には、衝動的ではない
人間らしさを志向する
理性的かつ主体的な心の働きがある。

この無意識の考え方が、フランクル心理学のオリジナリティのひとつです。私たちの知らないところ(無意識)で、「心」が人間らしい決断や選択をするのです。フランクルは「決断する無意識」といっています。であれば、私たちのもつ「心」は、頼もしい味方となりますね。

「無意識」が主体的に人間らしい決断をする。

これが、2つの目のポイントとなる「人間らしい」です。「人間らしい」心の働きが、無意識のレベルで行われるので、それを信頼すれば、心の働きが健全化していきます。

例えば、駅のホームに立つと、「心臓が止まるのではないか」という恐れがわき起こるようになり、電車に乗れなくなった人がいたとします。これは、その人の本来の姿ではありませんね。その人らしくない状態です。

この自然とこみあげてくる衝動的な恐怖は、出来事(電車に乗る)に対する心の反応なので、フランクルは「心理」次元の問題ととらえます。もし、その恐怖に飲み込まれてしまったら、電車に乗ることができなくなります。

「心理」次元の問題に対して、「精神」(精神的無意識)は、「人間らしい」決断・選択をします。ですので、自然とわき起こってくる「恐れ」に対抗し「精神」は、「電車に乗る」という決断・選択をするように促すのです。

この「心理」レベルの働きに「精神」が抗(あらが)う作用のを、フランクルはこう言いました。

心理ー精神拮抗作用

この「心理ー精神拮抗作用」があるから、フランクル心理学の心理療法である「逆説志向」と「反省除去」が成立するわけです。

それでは、最後に、フランクルの著書から言葉を引用しながら、まとめに入りたいと思います。

もっと、無意識の力を信頼しよう。

『識られざる神』【新装版】
(みすず書房)
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「スランプを克服する方法(反省除去)」の記事で、スランプに陥ったバイオリニストの事例をあげました。あまりに意識的に努力をしすぎた結果、そのバイオリニストは、自分の本来持っている力を発揮できなくなったのです。

「反省除去」とは、過剰に自分へ向く意識を取り除き、無意識の働きに委ねることで、心の障害を取り除こうとする療法です。

つまり、「反省除去」は、先ほどの「心理ー精神拮抗作用」を活用しているわけです。フランクルはこう書いています。

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フランクル

彼のなかに蔵されている無意識のものが彼の意識にくらべてどんなに「より音楽的」であえるかを繰り返し繰り返し彼にきづかせてやることにより、この患者のために無意識への信頼を取り戻してやるということがなされねばならなかった。

事実、このようにして行われた治療の結果、本質的に無意識的(再)創造の過程が過度の意識作用の阻害的な影響から解放されて、無意識の有する芸術的「創造力」のいわば抑制解除がなされたのである。

『識られざる神』【旧版】(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p41

フランクルは、「精神的無意識」の作用として、「芸術的インスピレーション」「愛」「良心」の3つをあげてます。これらについては、改めて、別の機会に書きたいと思います。

精神的無意識の3要素
1)「芸術的インスピレーション」
2)「愛」
3)「良心」

「芸術的インスピレーション」を私たちが持っているとしたら、「無意識の力」、それはつまり「心の力」をもっと信頼してよいことになります。

図にあるように、心身の奥の無意識のレベルにある「精神」は、人間らしい力を発揮できるように、私たちを導く力です。

もっと、心の力信頼して、もっと、創造性を発揮しましょう。

(文:まっつん)


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フランクル

ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905〜1997)ロゴセラピーの創始者。オーストリア出身の精神科医、心理学者。世界三大心理学者(フロイト、ユング、アドラー)につぐ「第4の巨頭」。第2次世界大戦中のナチス強制収容所から生還する。その体験を記した『夜と霧』は世界的ベストラーとなる。「生きる意味」を探求するロゴセラピーという独自の心理学を確立し、世界に大きな影響を与えた。享年92歳。著書:『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)『意味による癒し』(春秋社)ほか。


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フランクルの画像 ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl) 参考 フランクルの「生いたち」から、その人生心理カウンセラーまっつん(松山淳) 参考 『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)紹介ページ心理カウンセラーまっつん(松山淳)