ユングの名言005-個性化・自己実現-

ユングの名言005個性化の過程

C.G.ユング

 個性化とは、まさに人間の集合的な使命を、
 よりよく、より完全に満たすことなのである。
 というのは、個人の特性に十分な顧慮が払われれば、
 それが軽視されたり抑圧されたりしたときよりも、
 より大きな社会的功績を期待できるからである。

『自我と無意識』(C.G.ユング 松代洋一・渡辺学訳 第三文明社)P94

ユングの考えた「自我」と「自己」の関係

自我(ego)と自己(self)の関係図
ユングが考えた「自我」(ego)と「自己」(self)

「自己」≒「自分」

「自己」という言葉と「自分」という言葉は、日常会話で、ほぼニアリーイコールで使われていますね。「自己理解」といえば自分を理解することですし、「自己満足」といったら「自分が満足すること」です。

でも、ユング(分析)心理学で「自己」というと、それはそれは重要な概念で、とても深い意味があります。

上の図にあるように、ユングは心を「意識」と「無意識」にわけて、「意識」の中心を「自我(ego)」としました。そして、「意識」「無意識」をふくむ「心全体」の中心を「自己(self)」としたのです。

「自己(self)」は、自分の心を「まとめる」中心的な役割をします。「まとめる」だけでなく、現状にとどまららず、より高い次元へと向かおうとする「高める」働きもします。

私たちが日頃、意識できている自分、つまり「自我(ego)」が、「自分はこういった自分でいい」「もうこれ以上、成長しなくてもいい」なんて考えていても、「自己(self)」「もっと成長しよう、もっと成長しよう」と、生涯を通して働きつづけるのです。

ですの、「自己(self)」は、「その人がなるべき究極の自分自身」といえます。

中年の危機(Midlife crisis)

中年の危機 イメージ画像

人生、30年、40年、50年と生きてくると「まあ、これ以上、成長もないでしょ」なんて、つい考えがちです。ところが、中年期になると、組織では上司としてリーダーとしての役割を求められることが多くなります。すると、それまでの自分では対処できない事態が、多く発生してきます。

人前で話すのことから逃げていた人が、「プレゼン力」を求められたり、他人の気持ちに興味のなかった人が、部下の気持ちに寄り添い、モチベーションを高める「共感力」を求められたり…、それまでの自分を変えていく必要性に迫られます。

自分の使いやすい性格上の「利き手」だけを使っていれば現実に対処できていたのに、「利き手」の反対の手も使わないといけなくなる状況です。

ミドル世代に訪れがちな自己の変革期をスムーズに乗り越えらればいいのですが、壁にぶつかって心の危機に陥る人もいます。そうした中年期に訪れる精神的な危機を「中年の危機」(Midlife crisis)といいます。

例えば、どちらかといえば、おとなしくて控えめな内向的な性格のAさん(30代)がいたとします。会社で成果を着実にあげて優秀な社員として認められていました。その実績をかわれ、ある日、、管理職に抜擢されました。ところが、何人もの部下をマネジメントする日々に追われて、Aさんは突如として元気を失ってしまいます。

http://www.psychologytopics.info/blog/wp-content/uploads/2019/06/jun-face.jpg
まっつん

部下をマネジメントする際には、内向的な性格のよさを生かしつつ、その反面である外向性を発揮して、自ら部下に関わっていこうとする意志と行動も必要ですね。

Aさんにとって「自我(ego)」レベルの認識は「おとなしい自分」でした。「内向的な自分のままでいい」「このままでいい」と考えていました。ところが、管理職となり、部下をマネジメントするためには、あるいは、組織でリーダーシップを発揮するためには、他人と関わる外向的な行動をとることを求められます。Aさんにとっては、利き手の反対の手で文字を書くようなものです。とても違和感があり、辛さ苦しさがあります。

でも、この苦しさを乗り越えて、心を成長させていけば、Aさんは「新たな自分」となって組織に貢献できるリーダーとなることでしょう。

個性化の過程・自己実現

ここでポイントとなるのは、内向的だったAさんが、外向的な行動を積極的にとれるようになり「新たな自分になった」としたら、そうだからといって、別人になったわけではないことです。資質として、外から何かをAさんは取り入れたわけではないのです。

もちろん、マネジメント系の本を読んだり、研修などで知識やスキルを習得したしたりすれば、「外から…」という言い方できます。

でも、Aさんがそうなったのは、「生まれ持ったものが開花した」という表現のほうが適切です。Aさんの中に「個性」として本来あったのだけど、まだ眠っていた「個性」が目を覚ましたのです。ですので、人が成長していくことは、自分が本来持っていた「個性」が内から出てきて「本来の自分に近づく」という言い方もできます。これがユングのいう「個性化」といわれものです。

人は心を成長させ「自己」(self)へと近づく

「自分がもっと自分になっていく」。それはつまり、その人がなるべき究極の自分自身である「自己(self)」へ近づいていくことです。

「自己(self)」は、「理想の姿」であると同時に、心で働く機能です。より高みへと人を導き、「個性化」のプロセスを「まとめあげる役割」も果たします。

そこでユングはこう書いています。

http://www.psychologytopics.info/blog/wp-content/uploads/2019/06/7329e7053000f65e2b0c3c1f1ce44621.jpg
ユング

「個性ということばが私たちの内奥の究極的で何ものにも代えがたいユニークさを指すとすれば、自分自身の自己になることである。したがって、「個性化」とは、「自己自身になること」とか、「自己実現」とも言い換えることができるだろう。

『自我と無意識』(C.G.ユング 松代洋一・渡辺学訳 第三文明社)P68

Aさんは、自我レベルでの「自分らしさ」(内向的な自分でいい)から外向的な面を含めた、より高い次元の自分=「自己」(self)を実現したわけです。 

こうした生涯を通して「自己」(self)に近づいていく心の成長プロセスを、ユングは次の2つの言葉で表現しました。

「個性化の過程」(individuation process)
「自己実現」(self-realization)

心の奥には、自分の知らない大きな可能性である「個性」が眠っています。その眠れる「個性」を目覚めさせていくほど「自分らしさ」が輝きます。そうして、人は、生涯を通して、自分がなるべき究極の「自己」(self)へと一歩、一歩近づいていくのです。

個性化の過程イメージ写真

その道は、高い山の頂上を目指すようなもので、時に険しい経験となりますが、「個性化」が達成された時の手ごたえと満足感は、計り知れないものがあります。

ですので、自分を決してあきらめず、自分に期待しつづけましょう。そうすれば、「自己」(self)の働きが、あなたを導くはずです。

(文:まっつん)

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)
『自我と無意識』
(C.G.ユング 第三文明社)
クリックするとAmazonへ!
ユング カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)