緊張や不安を軽くする方法(逆説志向)-フランクル心理学003-

フランクル心理学 不安や緊張を軽くする方法(逆説志向)

逆説志向(paradoxical intention)

逆説志向(paradoxical intention)とは、「そうなってほしくない症状」を、逆に「もっとそうなれ」とユーモアをもってあえて望む(志向する)ことで、症状を軽くする心理療法です。

強い不安を感じて冷汗が流れるのは、誰でも嫌なものです。不安感や冷汗が、「そうなってほしくない症状」です。

でも、「そうなってほしくない」と思えば思うほど、逆に、「そうなってほしくない症状」を意識することになり、症状が出てしまうのです。

逃げれば逃げるほど、追いかけてくる「影」のようなものです。どうにかしたいですね。そこで、フランクルは考えました。

フランクル
フランクル

逃げるから「そうなる」のであれば、逃げなければいい。むしろ、症状に立ち向かっていく、あえて、それを「もっとそうなれ」と望むことで、症状は軽くなったり、消えていくのだ。

この時に、ユーモアをもって「もっとそうなれ」と望む(志向する)ことがポイントです。

「恐れ」とは、それが「異常なもの」と認識することで、発生する感情、感覚です。異常なものを感知したら、恐れを感じる。この心理プロセスは、あたかも計画を立てているかのように、そうなります。

「何もしていないのに、心臓がドクドクする。異常なんじゃないか。おかしい、おかしい…」。心臓の鼓動を「異常なもの」と認知することで、恐れが発生し、心臓が気になってしかたなくなります。すると、さらに恐れがエスカレートし、心臓のドクドクが強くなっていくように感じます。

心臓がドキドキする男性の画像

でも、平気な人もいます。心臓がドキドキしても、「なんか最近、疲れてるからね、よくあること…」。さらりと流して、気にすることなく、自分が今していることに集中します。

「逆説志向」は、恐れに関する計画的とも思える心理プロセスに齟齬(そご)をきたすようにし向けます。齟齬とは、「物ごとがくい違って意図した通りに進まないこと」ですので、異常なものと認識しても恐れが発生しないようにするのが「逆説志向」です。

『神経症1』(V・E・フランクル みすず書房)掲載図(p154)を参考に作成した「計画の齟齬」に関する図
『神経症1』(V・E・フランクル みすず書房)掲載図(p154)を参考に作成

「異常なものを認知することで、恐れを感じる」。これももひとつのプロセスですが、「恐れを感じてるから、それが異常なものと認知される」。そう考えることができます。最初に恐れがあるのです。

では、最初の「恐れ」を「願望」におきかえたら、どうなるでしょう。

逆説志向のロジック

「そうなりたい」と自分から望む。
自分から望むのであれば、
それを正常なものと認知することができるはず。

これが「逆説志向」のロジックです。

フランクルは「逆説志向」によって、数多くの不安感から生まれてくる辛い症状を軽くすることに成功しているのです。では、具体的にその事例を見ていきましょう。

症例1ー発汗恐怖の医師

『意味による癒し』(V・E・フランクル 春秋社)の表紙画像
『意味による癒し』
(V・E・フランクル 春秋社)
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ある若い医師がフランクルのもとを訪れました。ある日、彼は上司と握手した時に、自分がものすごく汗をかいていることに気づきます。その時以来、「またひどい汗をかくのではないか」と「予期不安」が強くなりました。汗をかくのでないかと、考えるだけで冷汗が流れるようになってしまったのです。この医師は4年間、発汗恐怖で苦しんでいました。

まっつん
まっつん

こういったケースでは、汗の流れている自分に意識が取られて、目の前にいる人の話をまったく聞くことができなかったり、肝心のことを聞き逃したりして、仕事のミスにつながります。「この人は聞いないな」と相手に思われたら、怒りだす人もいるでしょう。これでは日常生活に支障があります。

フランクルは「逆説志向」を試みるため、若い医師にこう助言しました。

フランクル
フランクル

「今度発汗が起こりそうになったら、思いきって、自分はどれほどたくさんの汗がかけるかをひとつみんなに見せてやろうと心に決めてください」

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

若い医師は、「汗はかきたくない」との「汗の恐れ」から逃げようとしていました。ですが、フランクルは、汗をかくのをOKとするどころか、それを「みんなに見せてやろう」、「大げさに望む」ことを助言しています。

ここがユーモアですね。

それから1週間後に訪れた若い医師は、自分にこう言い聞かせているのだと、フランクルに報告しました。

「これまではたったの1クォート〔約1.4リットル〕しか汗をかかなかった。しかし今度はせめて10クォートは汗を流してやるぞ」

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

この結果、若い医師は、1回の面接と1週間の逆説志向の自主的トレーニングによって、約4年間続いていた発汗恐怖から解放されたのです。

症例2ー指のけいれん(簿記係 女性)

文字を書こうとすると手が震えること(書痙)で数年来、悩んできた簿記係の女性がフランクルの病院を訪れました。それまで何ヶ所もの病院で治療を受けてきたのですが、全く効果ありませんでした。

文字をうまく書けないことは簿記係として致命傷で、彼女は失職する寸前でした。絶望し、「自殺したい」とまで言いました。

これはフランクルの同僚が行なった症例です。

フランクル
フランクル

『治療を開始するに当たって、私の同僚は患者に、彼女がこれまでやってきたのと正反対のことをするように勧めました。すなわち、できるだけきちんと、読みやすく書こうとするのではなく、できるだけ汚くなぐり書きをするように勧めたのです。そして、こう言い聞かせるようにと助言されました。

「さあ、私がどれほど素晴らしいなぐり書きの名手であるかを見せてやろう」』

『意味による癒し』(ヴィクトール・E・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)p45

このユーモアに満ちたアドバイスの後、彼女は、なぐり書きをしようと思えば思うほど、そうできなくなりました。「私はなぐり書きをしようとするのですが、それが簡単にできないんですよ」(『意味による癒し』 春秋社p47)と言い、48時間以内に文字を書こうとする時の手の震え(書痙)から「さよなら」することができたのです。

症例3ーエレベーター恐怖症(42歳 男性)

『フランクルを学ぶ人のために』(山田邦男[編]世界思想社)表紙画像
『フランクルを学ぶ人のために』
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症例3は、日本での「勝田茅生」(かつた かやお)先生の事例です。『フランクルを学ぶ人のために』(世界思想社)に記されている内容を簡単にまとめます。

男性(42歳)は、会社のエレベーター故障で長い時間閉じ込められた経験があります。その後、閉所恐怖症の傾向が出て、エレベーターだけなくトイレに入っても扉を閉めることができなくなりました。

ある所で、精神分析を受けると、出産のトラウマが原因だと言われました。そこで、野球バッドで、母親に見立てた丸太を叩くという心理療法を受けました。「俺を出さなかったお前が憎い」と、大声で叫びながら、バッドを何度も打ち付けるのです。

しかし、症状が悪化したため、ロゴセラピストである勝田先生のもとを訪れます。エレベーターに乗ると「息ができなくなるような気がする」と男性は訴えます。そこで勝田先生は、「逆説志向」を試みました。

「ユーモアを持ってそれが起こることを大げさに望めば望むほど、不安は小さくなる」。逆説志向の説明を行い、大げさな願望を抱くように男性にお願いしました。半信半疑だった男性は、言葉を考え出しました。

「みんなが駆け寄ってきたときに、できるだけ大騒ぎして、自分を救急車で病院に運んでもらいたい。一度病院の車に乗ってみたかったのだから」

『フランクルを学ぶ人のために』(山田邦男[編]世界思想社)p41

男性はこれに続けて、他にもユーモアをまじえたアイディアをひねり出します。そして、勝田先生と一緒にエレベータに乗り込むトレーニングを行いました。9階で降りるまでに、ひどい汗をかきましたが、以前のような恐れを感じませんでした。

それからカウンセリングとトレーニングを繰り返し、半年ほどで男性は、閉所恐怖症の苦しみから抜け出していったのです。

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