アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)

マズロー

マズロー
マズロー

アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)アメリカの心理学者。フロイトの「精神分析学」や「行動主義心理学」ではない「第3の勢力」といわれた「人間性心理学」の生みの親のひとり。アメリカ心理学会会長(1967-1968)。「自己実現」「欲求階層説」「至高体験」などの研究は、心理学史に残るものである。享年62歳。

著書:『完全なる人間 魂のめざすもの』(誠信書房) 『人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』(産業能率短期大学出版部)『完全なる経営』(日本経済新聞社) ほか。

ニューヨークの知識人・文化人に影響を受ける

上の図を、どこかでご覧になったことが、あると思います。とても有名な「欲求階層説」の図ですね。

この説を提唱したのが、アブラハム・H・マズローです。

マズローは、米国ニューヨークで生を受けます。 両親は、ロシア系ユダヤ人の移民でした。 マズローはブルックリン郊外のスラム街で育ちますが、貧困に負けることなく勉学に励み、ニューヨーク市立大学に進学します。その後、ウィスコンシン大学に転学して、心理学に出会い、研究を重ねていくことになります。

1937年ブルックリン大学の教授に就任し、1951年まで同大学で教鞭をとりました。この時代のニューヨークには、ナチスの弾圧から逃れるために渡米してきたヨーロッパの著名な知識人・文化人が集結していました。個人心理学の創始者アフレフレッド・アドラーもそのひとりです。

マズローは、一流の知識人・文化人に接して大きな影響を受けます。その経験から、「一流と呼ばれる人は、なぜ、一流になりえるのだろう」という素朴な疑問をもつことになります。この疑問が、マズローの研究テーマの方向性を決めていくきっかけとなるのです。


人間性心理学は「第3の勢力」。

当時の心理学には、大きく2つの流れがありました。

「行動主義心理学」「精神分析学」です。

「行動主義心理学」は「行動」を観察する

「行動主義心理学」は、「心」ではなく「行動」に焦点をあてます。「心」ではなく、人間を「機械」のように捉え「行動」を観察するのです。

「パフロフの犬」

「One of Pavlov’s dogs」
出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

「パブロフの犬」。ベルを鳴らしてから犬にエサを与え続けたら、ベルが鳴るだけで、犬は唾液を出すようになりました。一定の「条件」を与えると、それに「反応」して「行動」が起きる。

これが「条件反射」ですね!

まっつん
まっつん

梅干しを見るだけで、唾が出てくる。切ったレモンを口に近づけてくると、まだ食べてないのに、口の中がすっぱいように感じられて、これまた唾が出る。「梅干し」「レモン」が「条件」で、「唾が出る」が「行動」ですね。人も日頃から、いろんな「条件反射」を体験していますよ。

1902年、ロシアの生理学者「イワン・パブロフ」が行なった古典的条件付の実験は、後の「行動主義心理学」の研究者たちに影響を与えました。

人間も、ある「条件」を与えられたら、それに反応して、機械的に「行動」が起きるのだ。「行動主義心理学」は、そう考えます。

「精神分析学」は「病んだ心」を観察する。

フロイト
ジークムント・フロイト(Sigmund Freud )

フロイトを源流とする「精神分析学」は、「心」に焦点をあてます。「心」を「意識」と「無意識」にわけて考え、「心」を観察し分析しようとします。

人の心には、なかなか自分ひとりの力では知覚することが難しい「無意識」という領域が存在している。この「無意識」が、人の行動に影響を与えている。

精神分析学ではそう考えます。

心の病の原因が「無意識」にあると考え、催眠や夢や対話によって、「無意識」を含めた「心」を理解し、病を治そうとします。精神分析学は、病気の治療を目的に発展していった医学であり、その対象は「心の病」をもった人たちでした。

「人間性心理学」は人間の「全体性」を観察する。

マズローは、「行動主義心理学」と「精神分析学」、そのどちらも学びながら疑問を抱くようになります。

マズローは、彼の代表的著作『〔改訂新版〕人間性の心理学』(産業能率大学出版部)の序文で、こんなことを書いています。

マズロー
マズロー

この本の論題を一文に凝縮するとしたら、当代の心理学が人間性について語らねばならないことに加えて、人はまた、より高次の性質をもつのであり、そしてそれは本能、すなわち人の本質の部分なのであるということである。

さらに付け加えることが許されるなら、行動主義やフロイト学派精神分析学の分析的—解剖的—原子論的—ニュートン的アプローチと正反対に、人間性の奥深い全体的性質を強調したであろう。

『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)p-xxi

マズローは、「人間の全体性」を大切にしました。「人間の全体性」とは、人間を「ひとつのまとまり」(全体)として考えるからこそ生まれる人間の独自性のことです。心を2つに分けて分析したり、実験のために動物を解剖したり、人間を機械のようにはとらえません。

「全体とは、部分の総和以上のものである。」

そんな言葉あります。

人間の部分といったら細胞や臓器や脳ですね。それら部分と部分が互いにくっついて関係しあって「ひとつのまとまり」(全体)=「人間」になると、心が発生します。不思議ですね。そして、思考が展開し、愛や友情を思いめぐらす「人間らしさ」が生まれてきます。

部分を単純に足していくと、人間全体は、部分を足した以上のものになります。

そうした人間の「全体性」に着目してくのが「人間性心理学」です。

また、「人間性心理学」は健康な人(健常者)を理解しようとする心理学です。

それまで学問的勢力を維持してきた2つの心理学に対して、「人間性心理学」は「第三勢力の心理学」と呼ばれ、発展していくことになります。

まっつん
まっつん

「人間性心理学」は、経営学者にも大きな影響を与えました。マズローと経営学者ダグラス・マグレガーは交流があり、マグレガーの「XY論」(自律的労働に関する肯定的・否定的見解)は、マズローの欲求階層説の理論が下地になってるんです。

それでは、次から、マズローのあまりにも有名な「欲求階層説」について、「自己実現」というキーワードを軸にして、おはなしを進めます。

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