カール・ロジャーズ(Carl Rogers)【前編】

ロジャーズ【前編】

カウンセリングの方向性を決定づける出来事。

『ロジャーズが語る自己実現の道 (ロジャーズ主要著作集)』(岩崎学術出版社)
『ロジャーズが語る自己実現の道』
(岩崎学術出版社)
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1928年、ロジャーズはコロンビア大学大学院の博士課程に在籍しながら、ニューヨーク州ロチェス ター市の「ロチェスター児童虐待防止協会」(児童研究部)で働き出します。

いわゆる非行少年や貧困など恵まれない子どもたちを相手にカウンセリングを行っていきました。この協会には12年間勤め、何千人もの少年少女たちと関わりました。

1929年、世界大恐慌の年には、児童研究部門の部長に昇進し、1930年には長女ナタリーが誕生し、1931年には、コロンビア大学大学院で哲学博士の学位を取得し、1935年同大学の非常勤講師として教鞭をとるようになります。

そして1937年(または1938年で、正確な年は不明)に、ロジャーズのカウンセリングに対する考えを改めるエポックメイキングな出来事が起きます。

それは乱暴な子どもを抱える母親をとの面談でした。

ロジャーズから見ると、子どもが荒れている原因は明らかで、幼少期に母親が子どもを拒否していたことでした。そのことに気づいてもらおうと、彼女から話を引き出しまとめ伝える、そうした面談を重ねていきました。でも、ロジャーズは、母親自身が繰り返している誤ったパターンに気づかせることができませんでした。何度面談しても、それはかなわなかったのです。お手上げになりました。

ロジャーズは、ある日「面接を終わりにしよう」と母親に告げました。彼女も終わりを受け入れ、面接室を出て行こうとした時、ふり返ってこう言いました。

「先生、ここでは大人へのカウンセリングは行っておられますか」

ロジャーズがイエスと答えて、母親はもう一度、椅子に座ると、結婚生活(夫の関係)の絶望感や混乱している自身の気持ちについて長々と語り始めました。それまでは、気持ちに焦点をあてるのではなく、何がこれまで実際にあったのか=「ケース・ヒストリー」について話し合われていたのです。

ロジャーズは、「本当の心理療法はそこから始まったのです」と書いています。結果的に、この母親の夫婦関係は修復し、少年の乱暴もおさまっていきました。カウンセリングは成功をおさめたのです。

後に、ロジャーズが「決定的な学習体験だった」という出来事に対して、彼はこうコメントしています。

ロジャーズ
ロジャーズ

何が傷ついているか、どの方向に進べきか、どの問題が重要か、どんな経験が隠されているか、それを知っているのはクライアント自身である、ということです。

私が自分の賢明さや知識を示したいという気持ちを持っていないのならば、クライアントがそのプロセスを自ら変化の方向に向かっていくのを信頼したほうがいいと考えるようになったのです。

『ロジャーズが語る自己実現の道 (ロジャーズ主要著作集)』(岩崎学術出版社)p17

知っているのはクライアント自身である。

この言葉には、もちろんカウンセラーが主役となるのではなく、クライアントの語ることを中心にしてカウンセリングが進行していく、「来談者中心療法」(Person-Centered Therapy)の根底にあるエッセンスが述べられています。

「来談者中心療法」に至るのは、もちろん、この経験だけでなく、出産外傷説で著名なオットー・ランクらかの大きな影響があったことが指摘され、本人も認めています。それについてはまた別の機会にしたいと思います。

母親が自分の気持ちを次から次へと話す時、きっと、ロジャーズは、黙って話を聞くことができたのではないでしょうか。

「受容」「共感」「一致」の全てができていたかは別として、カウンセリングが成功したのですから、きっと「必要にしてに十分条件」のいずれかを満たしていたのだと思います。

それでは、つづきは「カール・ロジャーズ(Carl Rogers)【後編】」で!

(文:まっつん) 

後記
日本のカウンセリング技法の中核には、ロジャーズの考え方があります。カウンセリングの資格は多くの組織から発行されているので、多くの人がロジャーズを学んでいるはずです。でも、フロイト、ユング、アドラーに比べると、注目度はそれほどではなく、原初の翻訳本も充実しているとはいえません。ロジャーズの知識があって、日本のカウンセリングの基礎ができた歴史的事実は変わらないので、もうちょっと、わかりやすい解説本が増えるなどして、ロジャーズの奥深さが伝わればと感じます(まっつん)

【参考文献】
『ロジャーズが語る自己実現の道 (ロジャーズ主要著作集)』(岩崎学術出版社)
『人間尊重の心理学』(C・ロジャーズ 監訳 畠瀬直子 創元社)
『カール・ロジャーズ入門―自分が“自分”になるということ』(諸富祥彦 コスモスライブラリー )