エドワード・L・デシ(Edward L. Deci )

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「内発的動機づけ」を高める3つの欲求。

階段を歩く男性

では、その「内発的動機づけ」はどうすれば生み出すことができるのでしょうか?デシはその源泉として「3つの欲求」を指摘しています。

  1. 「自律性への欲求」
  2. 「有能感への欲求」
  3. 「関係性への欲求」

ここから、3つの欲求について、順番に説明していきます。

自律性への欲求。

新人のA君は、マイクロ・マネジメント型の上司から「あれをやれ、これをやれ」「あれは、どうなった、これはどうなった」と、日々、事細かに管理されながら働いています。命令された仕事をこなして、1日が終わるような毎日です。

こんな風に、他人に管理され、コントロールされる状態が長びくと、内発的なモチベーションは、確実に下がっていきます。デシはこう言っています。

デシ
デシ

「人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必要がある」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

つまり、他人(外側)からコントロールされるのではなく、「自分のすることは自分で決めて動きたい」という「自律性への欲求」(内側)を満たすことで内発的動機づけは高まるわけです。

よって、会社では「権限の委譲」が行われ、部下が自由に「自己決定」できるように、上司は部下に仕事を「任せる」スタンスをとるマネジメント・スタイルが求められるわけです。

まっつん
まっつん

私も様々な企業の方々と打合を行います。上司と部下の方が同席するケースがほとんどです。部下がメインの担当者として私と話をしていると、横に座る上司が口を出してきて、話の主導権を奪ってしまい、ずっとしゃべりつづけて、担当者(部下)が決めたことを、ひっくり返してしまうことがあります。苦笑いする方(部下)もいれば、露骨に嫌な顔をする方(部下)もいます。もしそれが日常的になっているなら、任せ切ることのできない上司によって、部下の「自律性への欲求」は害されて、モチベーションは下がることになりますね。部下ではなく、上司のモチベーションは高まっていますが…(笑)

 

有能感への欲求。

「有能感」とは、自分で自分の仕事を「こなすことができる」「やりとげることができる」という感覚です。自分が何をするかを「自己決定」できたとしても、仕事のレベルが、本人の力量をはるかに超えている場合には、「有能感」をもつことができませんね。これでは、内発的動機づけは、下がってしまいます。

そこでデシは、こう言っています。

デシ
デシ

「有能感は、自分自身の考えで活動できるとき、それが最適の挑戦になるときにもたらされる」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

ポイントとなるのは「最適な挑戦」ですね。

仕事が簡単すぎても難しすぎてもいけない。「ストレッチ目標」という言葉がある通り、努力次第で目標達成は可能だと実感できている時に、「有能感」は生まれてきます。そして、その「有能感」が内的報酬となって、モチベーションを維持できるのです。

関係性への欲求。

「関係性の欲求」とは、「他者と関わっていたい」「他人とよい関係を築きたい」「他者に貢献したい」という欲求のことです。デシは、「関係性の欲求」との関係で、こんなことを言っています。

デシ
デシ

「自律性を主張することは、自分だけの世界に浸ることを求めているわけではない。なぜなら、真に自分らしくあるということには、他者の幸福に対する責任を受け入れることを伴うからである」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

デシがこう言うのは、「自律性」が、自己中心的な「わがまま」につながる危険性を認識しているからですね。

自分で決めて、自分で動く。

そう言うと「自律性」という言葉は、響きはいいのですが、他人の意見に耳をかさなくなったり、自分のためにだけ動くようになったりしたら、それは「関係性の欲求」を失った心理状態であり、単なる「わがまま」になってしまいます。

自分ひとりだけでは、生きていけないわけで、人との関係の中で「生かされている」という認識を、心が成長した人たちはもっています。

「自律性」は、成長した人間に伴う特性です。「自己中心性」は人として心が未熟な状態です。心が成熟してゆけば、自然と、他人の幸福や社会の発展に貢献しようと、責任感を抱くようになります。

「関係性の欲求」を源泉としたモチベーションは、持続性と強度があるのです。

会社で働いているならば、「関係性への欲求」を満たす原点は、職場の人間関係ですね。人間関係の良好な職場では、社員がイキイキと働いているものです。

社員が「自律性」をもって、ひとりの人間として成長し、「有能感」をもてるように支え合い、互いを尊重する「関係性」が組織風土として根付けば、「明日もがんばろう」と思えるモチベーションの高い社員が増加するでしょう。

デシの提唱した「内発的動機づけ」は、今も、モチベーションを語るうえで、忘れてはいけない大切なことを示唆してくれています。

(文:まっつん)

後記
「働き方改革」のもと、数字で示しやすいので、残業時間の削減が先行したけれど、それでモチベーションが下がったら本末転倒ですね。デシの理論は、モチベーション理論としては古いものだけど、「自律性」「有能感」「関係性」の3つの視点から「働き方改革」を整理するのは、決して、古くない手だと思います。(まっつん)