山王工業との試合が始まります。安西監督が考え出した奇襲が功を奏し、前半は2点差のリードで折り返します。しかし、後半となり実力差が現れ始めると、58対36と点差が開きます。
ここで監督は、スタメン出場していた桜木をベンチに下げます。ベンチから試合を見させて、勝つための秘策を授けるためでした。どうするかを伝え終わると、安西監督は桜木を「勇気づけ」ます。
「それが出来れば君が追い上げの切り札になる…‼︎」
『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)
ベンチの補欠メンバーが思いを託すため、次から次へと桜木に握手していきます。監督の言葉と補欠メンバーの行動が、桜木の心を強く揺り動かし、後半戦の活躍につながります。桜木の心理状態がこう解説されていました。
「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」
『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)
アドラー心理学の重要な概念に「共同体感覚」(social interest)があります。
アドラーは、「共同体感覚」の育成と保持を人生の大きな目的としています。
桜木花道は、問題児でした。
バスケ部に入ってからも次から次へと問題を起こしています。その行動が、ギャグと相まって漫画の面白さを格別のものにしていますが、「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」という言葉から、「共同体感覚」の欠落を理解できます。これは物悲しい事実です。
桜木はバスケ部に所属し数多くの人々と関わっていくことで、そして安西監督の数々の「勇気づけ」があり、物語の終盤27巻目(全31巻)でやっと、「自分は必要とされている」という感覚を抱くことができたのです。
「僕はこの学校にいていいんだ」
「私はこの職場で必要とされている」
そんな「共同体感覚」を育むことで人は「生きる力」を育むことができます。そのための「勇気づけ」、そしてアドラー心理学は、今後も、ますます注目されていくことでしょう。
(文:まっつん)
