
「良心」とは、「良いことをする心」であり、「良いことを行う際の原動力になる心」とも言えます。「何が良いことなのか悪いことなのか」を語り出すと、本1冊になるお話しですので、ここでは、「良心」を「人間にとって良いことをする心」と定義しておきます。
それでは、フランクルが、「良心」について何と言っているかに耳を傾けてみましょう。

(良心という現象は※)「決断する存在」としての人間存在に無条件に所属している(中略)良心と呼ばれているものが無意識の深層にまで及んでいるものであり、無意識の根底に根ざしているものであることは、事実なのである。
『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p40
※(良心という現象は)は、私「まっつん」が追記しました。
ここでポイントとなるのは、良心が「無条件に所属している」という点です。
「無条件に所属している」というと小難しくなりますが、「無条件」ということは、言葉を変えれば、「どんな人にも、どんな時にも」ということです。

男であっても、女であっても、日本人であってもアメリカ人であっても、1000 年前であっても現在でも、条件にとらわれず、「どんな人にも、どんな時にも」、人は「無意識」という場所に「良心」を持っている。そうフランクルは考えたのですね。
でも、それは本当でしょうか?
この世界には、たくさんの悪人がいて、良心に反する行いをしています。道徳心を忘れ罪を犯す人は、全世界で数えたら、100人、1000人の話しではありません。
それでも、フランクルが「良心」の存在を否定しないのは、なんといっても、地獄のナチスの強制収容所に投獄されて、人間の本性を見続けた経験が大きいでしょう。
そこは、監視官に殴られ食べ物もろくに与えられない非人間的な空間です。そんなひどい場所に置かれたら、「良心」など出る幕はなく、「道徳心」は働かないはずです。生き延びるために、誰もが自分だけのことを考えて「良心」に反する罪深い行いをする…。
フランクルが学んだ心理学では、そう考えられていました。
でも、フランクルは見たのです。 地獄の惨劇で、人のお手本になるような「良心」を発揮する人たちを…。しかも、その数は、決して少なくなかったのです。
世界的ベストセラーとなった『夜と霧』で、フランクルは、こう書いています。

各ブロックの囚人代表の中には優れた人物がいたが、そういう人物は彼のしっかりした勇気づける存在によって、深い広汎な道徳的影響を統率下の囚人に及ぼし得る多くの機会をもっていたのである。模範的存在であるということの直接の影響は常に言葉よりも大きいのである。
『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p40
フランクルは、地獄に「天使」を見ました。その「天使」は、「たまに」ではなく、「いつも、どこか」で見かけることができました。
もし、「良心」が、どんな人にも、どんな時にも、無条件に備わっているものでなければ、ナチスの強制収容所で「良心」的な人を見かけることは、まずなかったでしょう。
「良心」が、「精神的無意識」といわれる「無意識」の根底に根ざしているからこそ、人の道に反する行いをされても、非人間的な環境に置かれても、「良心」は、押し流されず、人を模範的な存在に仕立てあげた、と考えられます。
フランクルは、この「良心」を、「超越的な存在からの声を聞きとる心」だと考えていました。フランクル心理学では、「人間が生きる意味を問うのではなく、人間は、運命から問われている存在だ」と考えます。
問うのではなく、問われ、その問いに答えていくのが人生。
フランクル心理学では、その様に、人間を「問われ、答えていく存在」として定義します。
では、この問いを、どこで聴きとるかというと、フランクルは、それは無意識のレベルにある「良心」だと言います。「良心」は、運命や人生や何か大いなる存在からの声を聞き取り、道徳的な人間らしい決断をしているのです。
ということで、「良心」は、自己超越や人間の宗教性との関係で、さらに踏み込んでいくことができます。ただ、それをすると、かなりの文量となりますので、これについては機会を改めたいと思います。
以上、フランクルが考える無意識の3つの代表的な働きでした。
では、良心について、フランクルの名言を最後にあげて、本論を終えたいと思います。お疲れ様でした。
われわれは、人間がみずからの内部にそれと意識することなく天使を秘めている
『識られざる神』(みすず書房)p76
(文:まっつん)

ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905〜1997)ロゴセラピーの創始者。オーストリア出身の精神科医、心理学者。世界三大心理学者(フロイト、ユング、アドラー)につぐ「第4の巨頭」。第2次世界大戦中のナチス強制収容所から生還する。その体験を記した『夜と霧』は世界的ベストラーとなる。「生きる意味」を探求するロゴセラピーという独自の心理学を確立し、世界に大きな影響を与えた。享年92歳。著書:『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)『意味による癒し』(春秋社)ほか。
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