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「死にたい」を乗り越える-フランクル心理学005-

フランクル心理学 「死にたい」を乗り越える 発見的楽観主義

生きる意味があるかないかと、悩まなくていい。

フランクル心理学(ロゴセラピー)が世界で広まった現在となってみれば、彼が心理療法で接した人の数は、ほんのわずかと言えます。

フランクルは、様々な媒体(書籍や講演)を通して、自身の考えを伝えることで、世界中の人々の心を癒すことに成功したのです。フロイトやユングの考えはとても偉大ですが、その原書を読んで、一般の人が元気づけられるかというと、ちょっと疑問が残ります。

でも、フランクルの本を読んで勇気づけられた人は、世界中にいるのです。その事実から、フランクル心理学は「読書療法」に適していると言われます。

「死にたい」と思っていた人が、フランクルの本を読み、「もう少し生きてみよう」と思ったら、心理療法として効果があったということです。フランクルの本には、人に希望を与える作用が確かにあるのです。

『夜と霧』(みすず書房)
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でなければ、『夜と霧』に代表されるフランクルの著作は、とっくのとうに絶版となり、誰の目にもふれられない本になっていたことでしょう。彼の本が今もまだ世界中で出版され続けている事実が、フランクル心理学の効能を証明しているといえます。

フランクル心理学には、多様な考え方があります。心に作用する考え方として代表的なものに、価値観のコペルニクス的転回を起こすものがあります。

「コペルニクス的転回」とは、コペルニクスが提唱した「地動説」(太陽を中心にして地球が太陽の周りを回っている)によって、それまで信じられていた「天動説」(地球を中心にして他の天体が地球の周りを回っている)がひっくり返ったように、物事の見方が180度、変わることです。

それでは、ここから、コペルニクス的転回を起こす、フランクル心理学の人生に対する見方について書いていきます。

人生観が180度変わる考え方

私たちは絶望的な状況に突き落とされると、生きる気力を失います。もう死んでしまいたいとさえ考えます。それは「生きる意味」を見失った状態です。とても苦しく辛い状況です。

まっつん
まっつん

でも、「見失った」というのは、「あるもの」が見えなくなったということですね。例えば、野球で守備をしている選手が「ボールを見失った」といった時に、ボールが消えているわけではありません。それと同じように「生きる意味」はゼロになったわけではなく、どこかにあるのです。

どんな絶望的な状況でも「生きる意味」はあり、私たちに発見されるのを待っています。

悲観的に考えれば「生きる意味」は消えてなくなります。でも、生きる意味は必ずどこかにあると信じて生きることで、人強くなれるのです。「生きる意味は今、見えなくなっているけれど、あきらめず生きてゆけば、必ずまた見つけることができる」。そんな楽観的な姿勢をもった人生観をフランクルは次のように言いました。

発見的楽観主義(Heuristic Optimism)

発見的(Heuristic)とは、頭の中だけで論理的に答えを考え出す「机上の空論」ではなく、実際に、試行錯誤を繰り返し直観も使いながら答えを導くことです。

ここでいう試行錯誤とは「生きること」ですね。「生きていれば、必ず、また意味は発見できるよ」と楽観的に考えることが、発見的楽観主義です。

フランクルにとって「意味があること」は、前提条件です。どんな時にも「生きる意味はある」と考えます。

ですので、フランクルは、「死にたい」と悩み苦しんでいる時に、「こんな人生、生きていて意味があるのか」と問う必要はない、といいます。どれだけ問いかけても「生きる意味」の答えは返ってくることはなく、「むなしさ」は募(つの)るばかりになってしまいます。

では、どう考えろというのでしょうか?

フランクルは、私たちを諭します。

フランクル
フランクル

「ここで必要なのは生命の意味についての問いの観点変更なのである。すなわち人生から何をわれわれはまだ何を期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。そのことをわれわれは学ばねばならず、また絶望している人間に教えなければならないのである」

『夜と霧』(V・E・フランクル[著] 霜山徳爾[訳] みすず書房)p183

「生きる意味があるかないか」と問うことは、人間が、「人生に対して何かを期待すること」です。家族のことであったり、仕事のことであったり、お金のことであったり、恋愛のことであったり…絶望的な状況で、何かを期待することは、もちろん当然のことです。

でも、その考え方は、先ほどの図の水平軸の話しであって、それだけでは人の心は弱くなるのです。なぜなら、「死にたい」と思うほどの状況は、自分の力で変えられないことのほうが多いからであり、成功と言われる状況をすぐに実現することはとても難しいからです。すると、絶望から抜け出せない心の状態がずっと続くことになってしまいます。

人生に期待するのではなく、人は人生から期待されている存在の図

例えば、フランクルがナチスの強制収容所に入れられましたが、どれだけ解放してくれと頼んでも、それはすぐには叶わない願いです。絶望的な状況を受け入れつつ、その場で、人生が期待していることを、フランクルは行い、「生きる意味」を見出していったのです。

震災で最愛の人を失ったり、会社が倒産したり、リストラされてしまったりした場合、その状況を簡単に元に戻すことはできません。人生から期待できることはとても少なくなっている状況です。

大切なことは、「生きる意味」「生きがい」を実感し、「生きる力」をもう一度、取り戻すことですね。

「それでも生きる意味はある」と言えるようになるには、人生が自分に期待していることを見つけ出し、それを行うのです。そうすれば、自然と「生きる意味」が満ちてきます。人生は私たちに期待しつづけています。あきらめてしまうのは、人間のほうです。

ですので、こう言えます。

人間がどれだけ人生に絶望しても、決して人生は人間に絶望しない

東日本大震災で、数多くの人が家族や家や仕事を失いました。絶望の谷に突き落とされました。それは神戸でも熊本でも同じであり、その他、様々な自然災害の多い日本では、悲しい事実ですが、毎年必ずどこかで起きていることです。

自然災害だけなく、リストラや詐欺にあうなど、自分の意志とは無関係の大きな力によって人生を狂わされてしまうと、生きる気力を失い、世を恨んで自暴自棄になってしまう人もいます。

「もう、これからの人生に何も期待できない」と…。

でも、同じ苦しい状況にありながら、人生の再起を誓って、自分のお店や会社を建て直し、「亡くなった家族のぶんまで幸せになるのだ」と、心を新たにして力強く生きてゆく人たちがいるのも事実です。

悲劇や苦境を偉大な勝利に変えていった人たちが実際に存在している限り、人生に期待することが何もないように思える「死にたくなる」絶望的状況でも、人生が私たちに何かを期待していることは確かな事実です。もし、それが違うのならば、私たちは絶望から立ち直ることはできないことになってしまいます。

人生に絶望するのは、いつも人間のほうであって、人生は私たちに決して絶望しません。人生は私たちに期待し続けています。その期待されていることを、ひたすら、無我夢中で行っていけば、そこに生きる意味が輝き出します。

私たちは、どんな時にも「生きる意味」をもつ
人生から期待され続ける価値ある存在である。

フランクル心理学は、人間や人生の可能性、その価値を徹底的に肯定する考えに基づいています。その肯定的なメッセージを、私たちは意識的にも無意識的にも感じ取ることができます。ですので、死にたくなるような辛く苦しい時ほど、自分の体験と重ね合わせることで、フランクルの本から希望を見出すことができるのでしょう。

希望を感じている男性のイメージ画像

フランクル心理学は、あなたの人生を肯定する心理学です。「どんな時にも意味があるよ」と…。

そして、辛く苦しい時ほど、人生から何かを期待されているのだと理解できれば、「生きる力」がわいてきます。

人生は、どんな時でも意味があります。人生があなたに期待しているのです。あなたは、この世界で何かを行う、とても価値がある存在です。

自分をあきらめないでください。希望は必ずあるのです。

(文:まっつん)


フランクル
フランクル

ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905〜1997)ロゴセラピーの創始者。オーストリア出身の精神科医、心理学者。世界三大心理学者(フロイト、ユング、アドラー)につぐ「第4の巨頭」。第2次世界大戦中のナチス強制収容所から生還する。その体験を記した『夜と霧』は世界的ベストラーとなる。「生きる意味」を探求するロゴセラピーという独自の心理学を確立し、世界に大きな影響を与えた。享年92歳。著書:『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)『意味による癒し』(春秋社)ほか。


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著:松山淳 解説:諸富祥彦
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フランクルの画像 ヴィクトール・エミール・フランクル(Viktor Emil Frankl) 参考 フランクルの「生いたち」から、その人生心理カウンセラーまっつん(松山淳) 参考 『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)紹介ページ心理カウンセラーまっつん(松山淳)
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