フランクルはナチスの強制収容所に入っていました。
ナチス親衛隊の監視兵から日常的に暴力を受けていました。収容所では、飢餓や病気によって、人が次から次へと人が死んでいきました。自殺する人も後を絶ちません。「生きる意味」など、微塵も感じられないような地獄の地です。
そんな最低最悪の状況にあっても、天使のごとくふるまう模範的な人間がいた、とフランクルは言います。そして、その数は少なくなかった、と…。自分の食事を他人に分け与え、凍える夜に自分のシーツを病人にかけるような「天使のふるまい」何度も目にしたというのです。
フランクルが目撃したことは、それまで学んできた心理学とは違うものでした。「自分の置かれた環境が最悪のものになれば、人間は道徳を失い、最悪の行為を行うことになる」。そう学んだのです。でも、どんなに自分の生きる環境が悪化したとしても、人としての人格の高さ、その美しい態度を崩さない人が、確かにいたのです。
そこで、フランクルは『それでも人生にイエスと言う』(p37)で、こう書いています。
「私たちはさまざまなやりかたで、人生を意味のあるものにできます。活動することによって、また愛することによって、そして最後に苦悩することによってです。
苦悩することによってというのは、たとえ、さまざまな人生の可能性が制約を受け、行動と愛によって価値を実現することができなくなっても、そうした制約に対してどのような態度をとり、どうふるまうか、そうした制約をうけた苦悩をどう引き受けるか、こうしたすべての点で、価値を実現することがまだできるからです。」
例えば、病を背負い長い間、病院のベッドに伏せる人がいたとします。自分で何かを行う「創造価値」は作りだせず、世界から喜びや感動を受け取る「体験価値」も難しくなってしまった。
でも、その人が病を克服しようと必死に生きようとしているならば、その姿、その態度は、それを見た人々に「生きる勇気」や「人生の意味を考える機会」を与えるでしょう。
つまり、その人が苦悩から逃げず、むしろそれを引き受け、その時とる態度によって人生の意味を満たすことできるのです。
希望を見出せない時でも、「とる態度」によって誰かを感化することができ、そこに意味が生まれる。強制収容所で「天使のふるまい」をした善人たちは、その「とる態度」によって、フランクルに感銘を与えました。その結果、『夜と霧』の文章となり、それは世界に広まり、時を超えて今を生きる世界中の人々に勇気を与えつづけています。
人のとる態度、ふるまいによって、価値が生まれ、意味をなす。
これが態度価値です。
「ホモ・サピエンス」という言葉を聞いたことがあると思います。「ホモ」は人間であり、「サピエスンス」はラテン語で「賢い」を意味します。他の動物に比べて「賢い」という点に人間の本質がある。そこで、人間の種の学名が「ホモ・サピエンス」となっています。
フランクルは、「ホモ・パティエンス」(苦悩する存在)という概念を提唱しました。人間の本質を「苦悩すること」としたのです。
人間以外の動物は、「自分の人生に生きる意味があるのか、ないのか」なんて、苦悩することはありませんね。人は、高度な思考力をもったがゆえに、思い悩み、苦しみます。
でも、苦しむだけではありません。その苦しみを通して、人は、人間性を高め成長していくことができます。むしろ、苦悩があるからこそ、人は悩みを克服しようと努力し、よりよい人間になれるのだといえます。
フランクル心理学の3つの価値、「創造価値」「体験価値」「態度価値」は、人に与えられた「苦悩」によって、より輝きをまします。
フランクルが地獄の強制収容所で、むしろ、その人間性を高めたように、私たちも苦難に負けない心を本質的にもっています。
「苦悩」したことは、決して無駄にならず、未来の財産になります。
ですから、どんな時にも人生に「意味」はあります。だから、私たちは、人生から「問われる存在」として、生きる責任を果たしつづけていくのです。
それでは最後に、僭越ながら、「まっつん」こと私がフランクル心理学をベースにして書いた物語『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)から、言葉を引用して終わりにしたいと思います。フランクル心理学のエッセンスをまとめた一文です。
意味はこの世界に満ちあふれている。
いついかなる時でも、
どんな状況にあっても生きる意味はある。
生きる意味があるか無いかと問う必要はない。
我々は問われている。
その問いかけにひたすら答えていけばいい。
答えていけば生きる意味は発見され、
生は必ず意味で満たされる。
だから、どんな時でも我が生にイエスと言おう。
(文:まっつん)
【フランクル関連で、他サイトに「まっつん」が書いた記事です】ご参考までに!
参考 フランクルの「生いたち」から、その人生心理カウンセラーまっつん(松山淳) 参考 『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)紹介ページ心理カウンセラーまっつん(松山淳)